自然災害に備える住宅ローンは必要?火災保険・地震保険と併用?
3.11の東日本大震災では多くの人が住宅を失いました。当時、住宅が無くなったにも関わらず、残った住宅ローンの返済を続けなければならない状態になってしまった人もいました。東日本大震災以外の災害、例えば大雨による土砂災害や豪雨などの自然災害で住宅を失った人は後を絶ちません。
また、近年は世界的にも気候変動のリスクは問題視されていて、日本だけでなく世界的に「100年に1度」ぐらいの気象変動が毎年発生するような時代に突入する可能性もあります。
その結果、国内の金融機関は「自然災害に備えることができる住宅ローン」の開発をすすめ、いくつかの金融機関では商品化して販売しています。このコラムでは、自然災害に備える住宅ローンが必要なのかについて解説しています。
日本は自然災害が多い
日本は自然災害が非常に多い国と言われています。特に世界有数の地震被害の多い国で、世界における日本の国土はわずか0.25%しかないにも関わらず、マグニチュード6以上の地震の発生回数の世界シェアは20%を超えると言われています(参考:内閣府・防災白書より)
東日本大震災(2011年3月11日)、熊本地震(2018年4月14日・16日)、北海道胆振東部地震(2018年9月6日)の大震災は鮮明に記憶に残っていますし、2011年から2014年は北日本の日本海側・関東甲信越で大雪の被害が甚大でした。
それ以外にも、広島県で大雨により発生した広島土砂災害、長野県・岐阜県に被害をもたらした御嶽山の噴火など、多数の死者を出した地震・噴火・大雨(大雪)は数多くあり、家屋が損壊するような自然災害は日本全国で数えきれないほど発生しています。
南海トラフ地震も近い将来発生する可能性があると言われていますし、北海道沖大地震も近いと言われています。日本は春夏秋冬の季節の移り変わりを1年間を通じて味わえる自然豊かな国ですが、その一方で、その季節ごとに様々な自然災害が発生します。
大げさな表現でもなんでもなく、日本に住んでいる限りは、いつ・どこに住んでいても自然災害への備えは必要になるとも言えます。
自然災害の被害を受けても住宅ローンは残る
そんな日本で数千万円の借金をしてマイホームを持つというのは一定のリスクがある行為です。
原則として自然災害によりマイホームが損害を受けた場合でも住宅ローンの返済義務は残ります。壊れたり流された家に住み続けることはできませんので、マイホームが全壊した場合は、新しく済む場所を確保する必要があります。住めない家の住宅ローンの返済と新しく済む場所の費用を被災した状態で工面しなければならない状況になる可能性があります。
仮に半壊でも大きな金額の修繕費が必要になります。
被災してマイホームが損害を受けただけでもショックが大きいにも関わらず、住めない状態になってしまった住宅に関する債務(借金)と、生活を再建するための費用が必要を用意して家族の生活を維持するのは並大抵のことではありません。
破産手続きで清算も可能
上記のような状況に陥ってどうしようもない状態になってしまった場合の対策の1つに自己破産の申し立てがあります。
破産手続きを申請すると、支払能力の有無が確認されて、債務の支払不能と裁判所により認められた場合、債務(借金)を整理することになります。債務(借金)だけが整理されるわけではなく、資産も整理して、可能な限り債務を返済したうえで破産宣告が為されますので、基本的には全ての資産と債務がなくなりゼロからスタートすることになります。
なお、破産宣告されると5年以上は住宅ローンなどのローンは利用できず、クレジットカードも保有することができないなどのデメリットも存在するのでゼロと言うよりはややマイナスから再建を目指すことになります。何か悪いことをしたわけでもなく、自然災害にあっただけで自己破産してしまうのはその人の再建の足かせとなってしまいますので、国や金融機関ではガイドラインを整備して通常の自己破産とは異なる枠組みで債務整理を行える制度を作っています。
続いて、自然災害時の債務整理の枠組み(ガイドライン)を解説していきます。
自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインとは?
耳慣れない言葉かもしれませんが、自然災害への被災の債務(借金)返済をサポートするガイドラインと言われるものが2016年から運用されています。
このガイドラインは全国の銀行が加入する全国銀行協会が自然災害により住宅ローンなどの返済が困難になった人の債務整理や再建手続きをサポートすることを目的に自主ルールとして定められたもので、東日本大震災時に利用された個人債務者の私的整理に関するガイドラインを参考に作られています。
あくまでも銀行業界が定めた自主ルールなので法令ではありませんので、必ずこのガイドラインに定めらるとおりの債務整理が行えるわけではない点には少し注意は必要ですが、全国の銀行を束ねる協会による自主規制なのでガイドラインに記載されている条件に合致さえすれば債務整理時に利用できる可能性は高いと考えて問題ありません。
この手続きにより債務整理が進められた場合、個人信用情報に登録されない(ブラックリスト扱いにならない)という点が1つ目のメリットです。債務整理した後に新たなローンを借りることができますし、クレジットカードなどもすぐに保有できることになります。
さらに、通常の破産手続きと違って保有しているすべての財産を差し出す必要がないという大きなメリットがあります。
なお、このガイドラインに基づいて住宅ローンの返済を免責できる人は、「住居が災害の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローンの返済がができない・または近い将来に返済できなくなることが確実であること」や「過去にローンの返済が滞ったことがないこと」などの条件があります。
破産手続きに比べれば有利に債務整理が行えますし、多少再建しやすくなりますが、マイホームを手放さなければならないことは変わりませんので困難な状況が続くことに違いはありません。
自然災害時債務免除特約付住宅ローンの登場
そんな中で注目を集めているのが「自然災害時債務免除特約」が付帯する住宅ローンです。三井住友銀行が日本で初めて提供を開始して話題を集めた商品で、その後、いくつかの銀行が取り扱いを開始しています。たとえば、SBI新生銀行が2017年10月から「安心パックS」という商品名で取扱いを開始しています。
それでは「破産手続き」や「自然災害債務免除ガイドライン」などの債務整理の方法が用意されていたり、自然災害に備える保険である「火災保険」「地震保険」が存在するにも関わらず、わざわざ住宅ローンに「自然災害時債務免除特約」を付帯させる意味があるのか、という観点で考えていきたいと思います。
まず、政府や銀行は自然災害に被災した人へのサポートは徐々を整備していますが、公的な取り組みはどうしてもセーフティネット(本当に困難な状況に陥った人をどのように救済するか)をどのすべきかの議論が中心になります。
自宅を無くし、返済のめども全く立たないような人を助ける取り組みは検討が進んでいきますが、なんとか頑張ればギリギリ生活を再建できるような人を助ける施策はほとんとありません。
「中流から上流」の生活している人が、被災後もその生活レベルを維持できるようにするような取り組みはありません。つまり、中流以上の生活を自然災害にあった後も維持していくためには自分で備えていくしかない、ということです。
その備えの1つになるのが「自然災害に備える住宅ローン」、難しい言葉でいうと「自然災害時債務免除特約」付の住宅ローンというわけです。
住宅ローンの自然災害時債務免除特約とは?
住宅ローンの自然災害時債務免除特約についてはこちらの記事でも詳しく紹介していますが、自然災害時債務免除特約とは、自然災害で住居が損壊した時に一定の期間について住宅ローンの返済を免除するものです。破産や債務免除などと違って、「資産の整理」が伴いませんし、住宅ローンの返済能力があったとしても条件を満たすことで一定期間住宅ローンの返済が免除されるという点がまず最初のポイントです。
金融機関により内容はことなりますが、被災して家が壊れたときに最大で24か月分の住宅ローンの返済が免除されるような商品です。毎月10万円の返済があったとすると240万円ぐらいのお金を受け取るのと同等の効果を得られます。
2年間住宅ローンの返済が免除されるのはもちろんメリットですが、これだけで被災後に再建しやすくなるとは言えません。あくまでもこの特約は「補助的な備え」の位置づけということで考えておくようにしましょう。
自然災害に備えるための基本は火災保険
住宅を購入する際に加入するのが火災保険も自然災害にも対応しています。対応しているというよりも、基本的な自然災害への備えは火災保険です。なお、一般的な火災保険には「地震・噴火やそれらに対する津波」への保障は含まれませんので、地震への備えを追加したり手厚くしておきたい場合は地震保険などを追加で付帯することが基本になります。
地震保険は保険金の割に掛け金が高い
ここでポイントになるのは地震保険による保険金の金額です。日本は地震大国で地震が頻発するうえに、大規模地震が発生した場合、地震による保険金の支払いで保険会社の経営が揺らぐ危険性すらあります。その為、地震保険の扱いについては保険会社も慎重になっています。
そのため、地震保険は単体では加入できず、火災保険にセットする形で加入しなければならなかったり、地震保険による保険金は火災保険の30%~50%程度となることが一般的だったりします。仮に1500万円(建物のみ)の評価額の物件の場合、火災保険の保障範囲に該当する場合は1500万円の保険金になりますが、地震保険の範囲の場合は、最大(全壊)50%の750万円の保険金の受け取りになります。
この750万円を受け取る地震保険に加入する場合、追加の保険料を年間で2万円~3万円(10年間で20万円~30万円)程度の保険料を負担しなければならない、という構図になっています。
この地震保険の仕組みを基本として次に考えたいのが①火災保険の半分の保険料で問題ないか、②10年間で20万円~30万円の保険料を支払えるか(支払う気があるか)です。
それぞれを言い換えると「①は火災保険では物件の評価額の半分しかカバーされないことを不安に感じるか」であり、「②は750万円の保険金の為に20万円~30万円の保険料を払いたくないと感じるか」です。
もし、①のように物件の評価額の半分しか保険金がおりないことを不安に思うのであれば、「住宅ローンに自然災害時債務免除特約」の利用はかなり効果的です。例えば、毎月10万円の住宅ローンを返済している場合「自然災害時債務免除特約」の条件を満たした場合、最大で24か月住宅ローンの返済が免除されますので、保険金総額としては240万円相当になります。建物の価値が1500万円あったとして、750万円を地震保険で得て240万円をこの特約で得られると考えると、地震・噴火に対する備えを手厚くすることができていることがわかります。
逆に②のように考える人は、地震保険には加入せずに「住宅ローンに自然災害時債務免除特約」を付帯させて最低限の備えを行うと言った対応が考えられます。
ただ、三井住友銀行などの住宅ローンの自然災害時債務免除特約は金利に0.1%上乗せになるので、特約の保険料の負担が大きくなってしまいますので注意が必要です。なお、このケースでも「火災保険の補償範囲」の部分は火災保険+自然災害特約のどちらでもカバーされることになるので手厚い保障になります。
<自然災害時(地震・噴火を含む)の保障を手厚くしたい人>
・火災保険+地震保険+住宅ローンに自然災害時債務免除特約を付帯
<自然災害時(地震・噴火以外)の保障を手厚くし地震・噴火には少し備えたい人>
・火災保険+住宅ローンに自然災害時債務免除特約を付帯
※地震保険には加入しない
SBI新生銀行の安心パックSの費用対効果は高い
自然災害に備える住宅ローンとして2017年10月にスタートしたSBI新生銀行の住宅ローン「安心パックS」は、+55,000円の事務手数料を契約時に支払うだけで10年間の自然災害債務免除特約を付帯させることができる商品です。他の金融機関の自然災害債務免除特約と比較しても地震保険の10年間保険料と比較しても非常に割安となっています。
筆者は自然災害債務免除特約の付帯する住宅ローンは利用価値が低い(金利に0.1%上乗せという保険料負担の大きさに比べて得られるメリットが少ない)と考えていましたが、SBI新生銀行が今までの常識を覆す程の低い経済負担で提供したことでその考えを改めました。
自然災害・地震災害への備えの基本は「火災保険」+「地震保険」ですが、先ほど紹介したように5万円程度の費用負担(で払いきり)であれば、備えを手厚くする目的としても、最低限に備える目的としても利用できますので、使い勝手は良いでしょう。
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