南海トラフ・北海道沖地震に備える住宅ローン|地震保険との使い分け

南海トラフ地震とは?
南海トラフ地震は、静岡県から宮崎県までの太平洋沿岸を震源として近い将来発生すると予想されている大規模地震です。南海トラフとは「フィリピン海プレートとユーラシアプレートが接する地域」のことで、そこを震源として震度7以上の地震が発生するとされています。
近い将来の発生が指摘される根拠は、南海トラフを震源とする地震が過去に何度も繰り返し発生してきた実績です。プレート境界では互いのプレートが押し合うことで日々ひずみ(エネルギー)が蓄積しており、いつ・どこで発生するかは現在の科学でも特定できませんが、いつの日か必ず地震という形でそのエネルギーが解放されると考えられています。
前回の南海トラフ地震である昭和東南海地震(1944年12月7日・紀伊半島東部の熊野灘沖・マグニチュード7.9・最大震度6)、昭和南海地震(1946年12月21日・和歌山県南方沖・マグニチュード8.0・最大震度6)からは、すでに約80年が経過しています。
政府の地震調査委員会は2025年9月に「南海トラフの地震活動の長期評価」を一部改訂し、今後30年以内に発生する確率を「60~90%程度以上」と「20~50%」の2通りで示しています(いずれも2025年1月1日を基準日とした値。計算モデルの違いによる2つの想定で、切迫性が高いという評価は変わりません。2024年までは「70~80%」「80%程度」と単一の値で示されていました)。
なお地震調査委員会は、この2つの確率について「幅の中の低い方だけ・高い方だけを示すこと」や「2つの計算方法の幅をつなげて『20~90%程度以上』と表記すること」は適切ではないとしています。数字の切り取り方で印象が大きく変わるため、引用するときは2通りの値をセットで見るのが正確です(出典:地震調査研究推進本部)。
以下は南海トラフを震源とした地震発生の歴史です。おおむね90~150年ごとに繰り返し発生してきたことがわかります。
南海トラフを震源とした地震の歴史
| 発生した年 | 地震の名称 |
|---|---|
1361年 |
正平 東海地震 正平 南海地震 |
| ↓ 137年 | |
| 1498年 | 明応地震 |
| ↓ 107年 | |
| 1605年 | 慶長地震 |
| ↓ 102年 | |
| 1707年 | 宝永地震 |
| ↓ 147年 | |
| 1854年 | 安政東海地震 安政南海地震 |
| ↓ 90年 | |
1944年 1946年 | 昭和東南海地震 昭和南海地震 |
| ↓ 約80年が経過!! | |
| ???年 | ??? |
南海トラフを震源とした地震の想定震度の分布(地域)

北海道沖巨大地震とは?
2018年9月6日に「北海道胆振東部地震」と名付けられた最大震度7の地震が発生し、大規模な停電被害も含めて北海道全域に大きな被害をもたらしました。
北海道も南海トラフ地震と同様に巨大地震発生の危険性が指摘されている地域です。ただし注意したいのは、以前から警戒されてきた「北海道沖巨大地震」は、2018年9月の胆振東部地震とは震源・原因が異なるという点です。つまり、北海道エリアは今もなお北海道沖巨大地震の警戒地域のままということになります。
以前から懸念されているのは、北海道の東側にある千島海溝を震源とする巨大地震です。この地震は南海トラフ地域よりも発生回数が少なく、約400年に1回の頻度で発生しているとされ、前回からすでに400年以上が経過しているため「いつ超巨大地震・巨大津波が来てもおかしくない」と言われています。
北海道胆振東部地震はマグニチュード6.7でしたが、想定されている北海道沖地震はマグニチュード8.8になるとも言われています。マグニチュードは”1″増えるとエネルギーが約32倍、”2″で約1,000倍になるため、想定される北海道沖地震は胆振東部地震をはるかに上回るエネルギーを持つ可能性があります。
※直下型地震(内陸型地震)と海溝型地震では震源からの距離などが異なるため、マグニチュードの大きさだけで被害規模を単純比較することはできません。

北海道沖地震・南海トラフ地震に備える住宅ローンとは?
これに近いテーマを扱った自然災害に備える住宅ローンは必要かを考えるコラムでも紹介していますが、東日本大震災をきっかけに住宅ローン業界では1つの動きがありました。
自然災害で被災した際に、住宅ローンの返済を一定期間免除したり、残高の一部を免除したりする特約を付けられる住宅ローンが次々と登場したことです。メガバンクでは三井住友銀行、地方銀行では常陽銀行・りそな銀行などが、現在も自然災害に備える住宅ローンを取り扱っています。
住宅ローンの付帯サービスだけでは地震に備えているとは言えない
残念ながら、自然災害に備える特約が付帯した住宅ローンを利用しているからといって、それだけで南海トラフ地震に十分備えているとは言えません。
なぜなら、住宅ローンに付帯する特約の多くは「住宅ローンの返済を一定期間免除する」といった内容で、マイホーム損壊時の被害額には到底及ばないためです。当然、何もないよりは良いのですが、備えとしては不十分です。
大地震によるマイホーム損壊に本格的に備えるには、保険への加入が前提になります。保険で地震に備えるときに特に注意したい点は2つです。1つは、火災保険単体では地震・噴火・津波による損害は対象外となるため、地震保険を追加で契約する必要があること。2つ目は、地震保険の保険金額は火災保険の保険金額の30~50%の範囲内でしか設定できず、しかも建物5,000万円・家財1,000万円が限度という点です(財務省「地震保険制度の概要」)。
つまり、火災保険でマイホームの価格100%相当を契約しても、地震保険はその30~50%が上限となるため、南海トラフ地震のような大規模地震に対する備えは地震保険だけでは手薄になりがちです。
そういう観点で考えると、被災時に住宅ローンの返済(一定期間)や残高の一部が免除される特約を「地震保険+αの備え」とすることには意義があります。
結論:地震被害に備えるには”地震保険”への加入が最優先。地震保険は火災保険の30~50%が上限のため、そのうえで、被災時に住宅ローンの返済・残高が免除される特約を併用すると、地震(によるマイホーム損壊)への備えがより充実する。
地震で万が一被災した時に活躍する住宅ローン(2026年8月時点)
各行の公式サイト・商品概要説明書で確認した、現在の取り扱い内容を整理しました。
| 銀行名(特約名) | 費用負担 | 補償の内容・補足 |
|---|---|---|
| 三井住友銀行 (自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン・約定返済保障型) |
住宅ローン金利+年0.1% | 地震のほか台風・豪雨・落雷なども対象。罹災の程度に応じて一定期間の約定返済額(元金+約定利息)相当額を払い戻す。「半壊」以上が対象で「一部損壊」は対象外 |
| 三井住友銀行 (同・残高保障型) |
建物ローン金利+年0.5% | 対象は地震・噴火・津波による「全壊」のみ。罹災日時点の建物ローン残高の50%を保険金で充当。約定返済保障型との併用はできない |
| りそな銀行・埼玉りそな銀行 (自然災害サポートオプション・返済補償型) |
借入金利+年0.1% | 半壊6か月分・大規模半壊12か月分・全壊24か月分の毎月返済額を払い戻し。借入の途中からでも加入可(変更手数料11,000円・税込)。1982年1月1日以降に建築された物件が対象で、フラット35系は対象外 |
| りそな銀行・埼玉りそな銀行 (同・残高補償型) |
基準上乗せ金利0.3%×建物金額割合 | 全壊時に「残高×建物金額割合×50%」を免除。建物金額割合40%なら上乗せは0.12%という計算 |
| 常陽銀行 (自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン) |
新規は住宅ローン金利+年0.05%(2025年4月現在) 既存ローンからの切替は+年0.1% |
水災・風災・雪災等も対象。返済中でも切替(中途申込)で付帯できる。公式の例では2,000万円を20年で借り入れた場合の追加負担は新規加入で月額約500円 |
| SBI新生銀行 (安心パックS・自然災害時債務免除特約) |
— | 2024年10月31日契約分で新規取扱を終了(既契約は継続)。これから新規に付帯することはできない |
※2026年8月に各行公式サイト・商品概要説明書で確認した内容です。上乗せ金利・引受保険会社・補償条件は変更されることがあるため、最新の内容は必ず各行公式でご確認ください。

金利上乗せ型の特約は、残高が大きいほど、残期間が長いほど負担が積み上がります。3,000万円を30年で借りた場合、年0.1%の上乗せの総負担はおおむね数十万円規模になります(残高に応じて上乗せ利息がかかるため、序盤ほど負担が大きくなります)。常陽銀行の年0.05%ならその約半分です。「保険料としていくら払っているのか」を必ず総額で把握してから判断してください。
返済中の人は「借り換えなくても付けられる」ケースがある
すでに返済中の方が見落としがちなのが、自然災害特約は借り換えなしで途中から付けられる銀行があるという点です。
りそな銀行の自然災害サポートオプションは借入の途中でも加入でき、変更手数料は11,000円(税込)です(借入日以降3か月後の応当日までに手続きすれば無料)。常陽銀行も既存ローンからの切替に対応しており、その場合の上乗せは年0.1%になります。
つまり「災害に備えたいから借り換える」という判断は、必ずしも必要ではありません。いま借りている銀行に同種の特約があるなら、中途加入と借り換えのどちらが安く済むかを比べてから決めましょう。
借り換えで自然災害特約を組み込むときの考え方
借り換えのタイミングで特約を付けるかどうかは、「借り換えで減る利息」と「特約の上乗せ金利の総負担」「地震保険料」を並べて判断するのが実利的です。手順は次のとおりです。
手順1:いまの適用金利・残債・残期間を確認する
返済予定表(償還予定表)か銀行のマイページで正確な数字を押さえます。ここがずれると、以降の比較がすべて狂います。
手順2:特約なしで借り換えた場合の削減額を出す
まずは純粋な金利差でいくら減るかを計算します。ここが借り換えの土台です。
手順3:特約の上乗せ分を差し引く
年0.1%の上乗せは、削減効果をそのぶん食います。残債が大きいほど上乗せ額も大きくなるため、「金利差0.3%の借り換え+上乗せ0.1%」は実質0.2%の借り換えと考えるとイメージしやすくなります。
手順4:同じ金額を保険に回した場合と比べる
「特約なしで借り換えて、浮いた分を火災保険・地震保険に手厚く回す」という選択肢もあります。特約は住宅ローンの返済を一部軽くするもの、地震保険は建物・家財の損害そのものに備えるもので、役割が違います。どちらを厚くするかは、住まいの立地や家計の余力で変わります。
なお、借り換え先の候補を金利や諸費用で比較するなら、保証料と一部繰上返済手数料が0円で、上乗せなしの全疾病保障付団信(2026年3月開始)を用意しているSBI新生銀行のように、諸費用と保障の条件が分かりやすい銀行も候補に入れておくと比較がしやすくなります(自然災害時債務免除特約は前述のとおり新規取扱を終了しています)。
よくある質問(FAQ)
Q. 自然災害特約に入っていれば、地震保険は不要ですか?
A. いいえ。特約は住宅ローンの返済や残高の一部を軽くするもので、建物・家財の損害そのものを補償するものではありません。建て直しや修繕の費用に備えるのは地震保険の役割です。順番としては地震保険が先で、特約は上乗せの備えと考えてください。
Q. 「一部損壊」でも補償されますか?
A. 三井住友銀行の約定返済保障型は「半壊」(半焼を含む)以上が対象で、一部損壊は対象外です。残高保障型はさらに厳しく「全壊」のみが対象です。りそな銀行も半壊以上が対象で、罹災の程度によって払戻期間が変わります。どの罹災区分から補償されるかは、必ず契約前に確認してください。
Q. 返済中でも特約を付けられますか?
A. 銀行によります。りそな銀行は借入の途中から加入でき(変更手数料11,000円・税込)、常陽銀行も既存ローンからの切替に対応しています。まずは今借りている銀行に中途加入の可否を確認し、そのうえで借り換えと比べるのが効率的です。
Q. 補償金を受け取ったら税金はかかりますか?
A. りそな銀行は商品概要説明書で「補償金は課税所得として所得税の課税対象となり、支払いを受けた場合は確定申告が必要」と説明しています。三井住友銀行も免除額を雑所得として課税される旨を案内しています。受け取り時の税務は各行の説明書と税務署・税理士にご確認ください。
Q. 被災して返済が難しくなったときの相談先は?
A. 自然災害で住宅ローンの返済が困難になった場合の債務整理については、まず借入先の金融機関に相談してください。全国銀行協会の相談室(0570-017109)でも案内を受けられます。
まとめ
日本に住んでいる以上、どの地域でも地震被害にあう可能性があります。その備えとして地震保険が用意されていますが、巨大地震が発生すると民間の保険会社だけでは保険金を賄いきれないため、地震保険は政府が再保険する官民共同の仕組みで運営されています(財務省)。
「地震保険に入っていても、いざ巨大地震が起こると保険金がちゃんと受け取れないから意味がない」という言葉を耳にすることがありますが、地震保険は国が支える公的性格の強い制度で、少額の保険料で大きなリスクに備えられる合理的な仕組みです。
北海道胆振東部地震では、地域金融機関が被災者の住宅再建を支援する住宅ローンを提供するなどの取り組みも行われました。とはいえ、地震被害から暮らしを守る主役はやはり自分自身の備えです。まずは地震保険、そのうえで自然災害特約という順番で、いまの契約に足りないものを1つずつ埋めていきましょう。返済中の方は、借り換えの前に「今の銀行で中途加入できないか」を確認するのが第一歩です。
※各特約の上乗せ金利・補償条件・取扱状況は変更されることがあります。最新の内容は必ず各金融機関の公式サイト・商品概要説明書でご確認ください。
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